第9章 迷い
急に感じる罪悪感。
重くのしかかる、現実。
子供が、産まれるまで、は。
そう、決めた。
子供が産まれるまでには迷いをなくすって。
終わりにするって。
決めた。
決めた、はずだ。
パパになったんだから。
しーちゃんはもう、パパなんだから。
今なら、引き返せる。
今ならまだ、引き返せる。
引き返せる距離にいる、うちに。
「それ、彼氏からの誕生日プレゼント?」
「え?」
ドクン、ドクン、て。
早鐘を打つ心臓に気をとられている間に。
しーちゃんの関心は私の左腕に移っていたようで。
「時計、そんなの、してなかったよね?」
「………………あ」
はずすの、忘れてた。
失敗した。
澪とご飯の予定だったし、完全に見落とした。
たぶんきっとしーちゃんは、ご飯の間もこれに気付いてたはず。
「別に、外さなくていいよ」
慌てて時計をバッグにしまうと。
不機嫌そうに左手を口元に持っていくしーちゃんの姿を、視界の隅に捉えた。
「しーちゃんも指輪、外してるよね?」
ハンドルを握る左手薬指には、この前見た指輪が消えてる。
「これ?」
左手をハンドルから外して、ヒラヒラさせるしーちゃんは、意地悪そうに笑ってみせた。
「よく見てますね」
「見てますよ」