第1章 夜暁
「しーちゃん」
いつのまにか煙草を終えたしーちゃんは、目の前で少し屈んで、花のアイスをペロリと食べた。
「うーわ」
「堂々としてんな、お前」
「なんで、今さらだろ」
さっき花のおでこにキスしてたもん。
もうみんなにバレてるよ。
それにきっと。
「意外とけっこう、見てないよみんな」
うん。
花も、そう思う。
「そろそろ俺、帰るわ」
「おー」
「じゃぁな、花」
「………………うん」
気付かれないように、笑顔を作って。
バイバイ、って。
手をふった。
「…………………花」
「ん?」
「それ、あいつが気付いてないと思ってる?」
「思ってない」
「そう」
「うん」
しーちゃんが帰る、一瞬。
花の寂しそうで泣きそうな顔を見ると、彼は満足そうに微笑むから。
花が無理して笑ってるの、彼はわかっていて、知らないふりをする。
名残惜しそうに彼の背中を見つめる花の視線にも、きっと彼は気付いてる。
知っていてわざと。
彼は、大好きな彼女のもとへと、花をおいて、行くんだ。