第9章 迷い
「悔しいけどさ、結城といるときの花はほんと、嬉しそうだよね」
帰る前の、お化粧タイム。
トイレの鏡とにらめっこしながらマスカラを塗り直す澪に、視線を向けた。
「恋する乙女、って感じ」
「嘘っ!?そんな顔してる??」
「ずっと結城ばっか見てるし」
「……そう、だった?」
「結城もあれ、気付いてるよね」
「嘘……」
「まぁ、結城も結城で嬉しそうだけどね」
「……」
「ねぇ花」
「?」
「綾瀬さん、逃がしちゃ駄目だよ」
「え」
「花が幸せになれるのは綾瀬さんだよ。結城じゃない。花が結城を捨て切れないなら絶対この関係はバレちゃだめ!」
「澪」
「いくらでも協力するから。共犯者、なってあげるから。絶対綾瀬さん逃がさないで」
「………うん」
ごめん。
澪にまで、罪を背負わせた。
しーちゃんを好きでいることはそんなに悪いことなのかな。
友達にまで私の犯した罪を背負わせなきゃいけないくらい。
そうでもしないと続けられないこの想いは、やっぱり立ちきらなきゃ、いけないんだ。
悪いこと、なんだ。
もうすぐ子供が産まれる。
終わりがすぐそこまで、来てるんだきっと。
深みに嵌まる前に。
浮かんでこれなくなる、前に。
引き返せる距離にいる間に。
終わりにしなきゃ。
戻らなきゃ。
頭の中ではいつもいつも、迷い続けてる。
だけど決められない。
子供が産まれるまで。
それまで、決定打に、突き当たるまで。
もう少しだけ。
時間をちょーだい。