第9章 迷い
「俺のと、お揃い」
確かに。
このデザインは見覚えがある。
「これなら、仕事中もつけてられるだろ?」
「でも、さっきこれ、買ってもらったよ、ね?」
「それはそれ。これはこれ」
「でも、これ、高いよね?」
この服だって、けっこういい値段した。
「………いいから俺にもカッコつけさせてよ」
「でも…………」
「気に入らなかった?」
「ううん、すごい嬉しい」
「よかった」
左手首ごと時計を抱き締めてそう言うと、優生も嬉しそうに笑ってくれた。
だめだよ。
花、こんなに優しくしてもらう資格ないのに。
裏切ってる。
こんなに想ってくれる優生を、裏切ってるんだよ。
そんな笑顔で笑いかけてもらえる権利も資格も、花にはないんだよ。
やっぱり花は、わがままだ。
こんなに想ってくれる優生も、しーちゃんも。
どっちも無くせない。
どっちも失いたくない。
駄々をこねる子供のように。
両方、欲しい。
どっちかなんて、選べない。