第8章 甘い蜜の、対価、代償
「とにかく、あたしの前で結城の話はしないで」
『不倫』
軽く考えてたのは、事実。
たまたま好きになった人に奥さんがいただけ、とか。
奥さんと別れて私と結婚して、とか。
俗にいう、そんな不倫じゃなくて。
大好きな大好きなしーちゃんとよりが戻ってみたら、『不倫』になってた。
ただそれだけ。
って。
思ってた。
『二股』なんて、思ってない。
もともと大前提として、花はしーちゃんの彼女じゃない。
『別れた』とか『よりが戻った』とか。
言葉の使い方が間違ってるけど、それが一番しっくりくるからそう言葉にしてただけで。
実際。
しーちゃんとは、付き合ってもない。
てことは、『不倫』にならないのかな。
なんて。
自分勝手な言い訳が頭の中を支配する。
「ごめん、花。人の恋愛どーこーいう気ははいけど、よく考えて?綾瀬さん、また傷つけていいの?失っていいの?」
「え?」
「今花に必要なのは、綾瀬さんでしょ。結城に洗脳されちゃだめだよ。花は結城なんかいなくたってちゃんと生きていけるし、幸せだよ」
「…………………うん」
「……………もー1回、よく考えて」
「うん」
これ以上、澪に何を言っても無駄だって、思った。
しーちゃんとの関係、誰かに認めてもらおうなんて思ってない。
だから、もーいい。
もうこれ以上、説教なんてされたくない。
もー何も、聞きたくない。
「花?」
「うん、わかってる。澪、もー、しないから」
「しない?」
「しーちゃんとは会わないよ」
適当に言って、誤魔化したって。
澪にはきっとすぐバレる。
でも誤魔化す以外の方法がわからない。
いつのまに。
誤魔化すことが最善だと思ったんだろう。
いつのまに。
心が汚染されてったんだろ。
いつのまに。
自分を守るための嘘を考えるように、なったんだろう。
どんどんどんどん。
心が真っ黒に染まっていく。