第8章 甘い蜜の、対価、代償
「………バカなの?」
「え?」
土曜日のランチ時。
さすがにどこもざわざわ騒がしい。
「あたし、明日から新婚旅行なの」
「知ってる」
「でもって、新婚さんなの、一応」
「うん」
ため息ひとつ。
目の前の一応新婚さんは、ここに入って来た時からこんな調子で機嫌が悪い。
「原因作ったのあたしだけど、なんとなく予想してたし、別に驚かないよ」
頬杖つきながら、視線は行き交う人たちに向けられてる。
「結城が花を手離すとも思えないし。花が結城を突き放すなんてできると思ってないし」
なげやりなその言葉には、至るところにトゲが隠れてることにも。
もちろん、ちゃんと気付いてる。
「あたし、結婚してるの。もーすぐ子供産まれるの」
「うん」
「妊娠ってね、けっこう辛いんだよ。1日1日、この子の様子伺って、少しでも胎動がなくなったら不安になるし、少しお腹はると心配で仕方ない。前期は前期でつわりだってあるし。ましてや里帰り中なんてもう出産近いんだよ?無事に産まれるのか、陣痛ってどんなかな、とか。いろいろ不安なの。旦那の浮気なんて心配してる余裕なんてないんだよ」
「…………………」
わかってる。
軽い気持ちで、こんなこと報告した訳じゃない。
「一番そばにいて支えてほしい時にこんなことするなんて、ほんと最低だね、結城」
「澪」
「あんたもだよ、花」
「………っ」
「悪いけど、あたしは結城の奥さんに同情する。不倫に二股なんて、そんなこと堂々とあたしに報告にくる神経がわかんない。勝手にあたしを巻き込まないで。あたしを共犯者にしないで」
『共犯者』
「ひとりで抱え込む勇気もないなら、不倫なんかしなければいいんじゃない?あたしに話して楽になった?少しは罪悪感、なくなった?」
「違うよ、澪。花、そんなつもりで話したわけじゃないよ」
「じゃ、どんなつもり?」
「え?」
「その話聞いて、あたしがどー思うか考えた?」
澪が、どー思うか?
どう、って。
「花はもー少し相手の気持ち考えて行動した方がいいよ。けっこう残酷なことしてるよ?」
「澪、に?」
「あたしにも、綾瀬さんにも」
「優生?」
「花はすぐ記憶なくしちゃうもんね」