第1章 夜暁
「花、結城に洗脳されないで」
藤崎さんよりも早く、現実に戻ってきたのはどうやら澪のようで。
しーちゃんに肩を抱かれてにこにこの花を、思いきりしーちゃんから引き剥がしたんだ。
「修、お前、ほんと最低」
視線はしーちゃんに捕まったまま。
ニッコリ笑うしーちゃんに合わせて、微笑んだ。
「どうも」
洗脳されてるつもりなんてない。
「花もいい加減目覚ませ」
「花、ちゃんと起きてるよ?」
「…………修、お前こんな天然記念物騙して、どこも痛まねぇ?」
「騙してねーし」
「ほんと、最低」
最低?
そんなの、とっくにわかってる。
今までの優しさも。
笑顔も。
花に触れる唇も。
全部、嘘。
わかってる。
しーちゃんは、悪い人。
だけどね?
しーちゃんがずるくて悪い人だから、花はしーちゃんのそばにいられるの。
しーちゃんの裏がある優しさも、そのおかげで花はしーちゃんに愛してもらえる。
必要としてもらえる。
全部わかってる。
しーちゃんが大好きな、バカで都合のいい女は、花だけの指定席。
誰にも渡さない。