第8章 甘い蜜の、対価、代償
自然と抱き寄せられて。
車道側を歩いていた花を、歩道側へと移動させられた。
すごくさりげなく、自然とこんなことできちゃうあたり、慣れてるんだよね。
「ん?」
じーっと見上げる花の視線に気付いた優生が、キョトンとしてる。
「慣れてるなーって」
「慣れてませんて」
「慣れてるよ。いっぱい女の子にこんなことしてきたの?」
「どーかな、あんま覚えてない」
考えたこともなかった。
優生がいるのが当たり前になってて。
花の知らない優生がいる。
花の知らない、社会人の優生。
花の知らない人たちに囲まれて。
笑ってた。
花に見せる顔とは違った表情で。
「気になりますか?」
花に見せる表情は、こんな風に甘い顔して、笑う表情。
でも、なんか違う。
今日見上げた優生は、すごく楽しそうで、対等だった。
みんなとちゃんと同じ位置で、話してた。
優生に気がありそうな先輩たちも、やたらに色気全開の後輩も。
ちゃんと同じ目線だった。
「花?」
同じ歩幅で歩いていた優生の足が止まって、繋がれた左手からそれが伝わる。
「なんでもない」
「なくないでしょ」