第8章 甘い蜜の、対価、代償
バカみたいに笑うしかできないから。
「ご心配おかけしてすみませんでした」
目の前の彼にも。
深々と頭を下げて。
何事もなかったように笑顔を向けた。
「悪かったな、ありがとう。後は大丈夫だから」
「じゃ、戻ります」
「うんありがとう」
「いえ」
「………」
大丈夫。
静まれ、心臓。
緩むな、表情筋。
大丈夫。
戦う準備は、できてるから。
「ほんと平気?」
「なんで?」
「顔色悪い」
「大丈夫だよ」
「あいつになんかされた?なんか言われた?」
「ただ心配してくれただけだよ?」
「ほんとに?」
「心配しすぎだよ」
「……遠目には、だいぶくっついてるように見えたから」
「え?」
優生を疑心暗鬼にしてるのは、私だ。
不安にさせちゃってるんだ。
私の、はっきりしないこの態度が。
「大丈夫だよ」
ごめん、優生。
私やっぱり、別れるなんて無理。
優生のぬくもりをなくすなんて出来ない。
好き。
優生が好き。
だけどごめん。
しーちゃんを、切るなんて無理だ。
ごめん。
ごめんなさい。
「優生、けっこう飲んだ?」
「え、酒臭い?」
「ううん、全然顔に出ないなぁって思って。強いんだね」
「花がいるのに酔えないでしょ」
「なんで?」
「俺が酔ったら誰が花の面倒みんの?」
「花、面倒?」
「面倒」
「えぇ?」
しかも、即答?
花、面倒なの?
「冗談だよ、ほら」
うつむいて立ち止まった花に、顔だけ振り向いて。
右手を差し出す優生に。
小走りで右手ごと抱きついた。
「わっ」
いきおいつきすぎちゃった。
バランスを崩して前のめりになる優生を見て、ケタケタ笑ってると。
今度は頭にあったかい手の感触。
「誰が子供じゃないって?」
「優生がお父さんみたいなんでしょ」
「お父さんみたい、は酷くない」
「じゃぁ、お兄ちゃん?」
「妹にこんなことしない」
頭のてっぺんにキスを降らせたあと、意地悪そうに笑う優生。
「やっぱり、酔ってる?」
「酔ってない」
「職場の人とか見られたらからかわれるよ?」
「いーよ」