第8章 甘い蜜の、対価、代償
やっぱり、見間違えじゃなかったんだ。
「なん、で」
ここにいるの?
「偶然、綾瀬さんと同じ会社だったみたい。俺も二次会に職場の先輩来たときは焦ったけどな」
さほど驚いた様子もなく、笑ってみせるその顔は。
お友達になりましょう。
なんて、友好的じゃないことは確か。
寄りかかってた壁から離れて。
一歩、近付いてくる。
「不倫に二股って、あんた天使みたいな顔してやることエッグイね」
「不倫、なんてしてない」
「…………あ、そ」
『不倫』『二股』。
出てきた言葉に感じた嫌悪感。
違う。
絶対にそんなんじゃない。
たまたま、好きな人が結婚しちゃっただけだよ。
好きな人を、選べないだけ。
そう頭の中でたくさん言い訳しても。
正当化できる理由が見つからなくて、押し黙る。
彼の言葉は全くの正論すぎて、正当化する言葉なんて存在しないのに。
自分のしてることの言い訳を考えちゃう。
「別に責めてないよ」
私のそんな態度はたぶん、考えてることすら見透かされちゃってるのかもしれない。
「ねぇ?」
急に、目の前に出来た陰。
「俺とも遊んで?」
壁に片手をつくと、そう耳元で囁かれて。
背筋が冷たくなるの、感じた。
ゾワゾワ、する。
気持ち悪い。
「なにしてんだよ!」
優生。
彼に遮られて、姿は見えないけど。
優生の声が聞こえた。
彼にも優生の声が聞こえたらしく、1度ふっと、笑うと。
「考えといて」
優生には気づかれないように。
もう1度耳元で囁いた。