第8章 甘い蜜の、対価、代償
「綾瀬さん、大丈夫ですか?」
タオルを片手に背中を擦ってる女の子。
色気駄々もれ。
同じくらいだと思うんだけど……………。
「そんな噂あったんですか?」
「だってお前、全然女に興味ない感じだったし」
「男にも興味ありません」
「花ちゃんみたいな子が、近くにいたとはね」
「え?」
「幼馴染みだって、聞いたけど?」
「ああ、はい。隣の家で」
「あんま余計なこと言わないで下さいよ」
「わかったわかった。あ、結婚するまで指輪禁止な。客減るから」
「はぁ?」
お客さんにまで、人気あるんだ。
高校の時も、けっこう女の人の出入り多かったもんね。
今よりヤンチャな感じがよかったのかな。
「楽しそうだね、職場」
「んー、まぁ、楽しいよ」
「優生をとられないように、頑張って色気の勉強するね?」
「勉強?」
「職場の人、みんな花と全然違うから。花もちゃんと優生に大人の扱いしてもらえるよう、頑張る」
いつも優生、花を子供扱いするんだもん。
もう中学生じゃないんだよ。
「花はそのままでいーよ」
「……………………え」
「ん?」
一瞬。
しーちゃんと、同じ言葉。
に、頭の中フリーズした。
「あ…………」
すぐに、優生に視線を合わせて。
「うん」
いつもと同じ笑顔を返して誤魔化した。
「花、トイレ行ってくる」
「ああ」
別れる、って、決めたのに。
終わりにするって。
でも。
なんでかな。
今はしーちゃんのこと、考えちゃ駄目な気がする。
優生にバレたくないって。
嫌われたくない、って。
思っちゃう。
別れたくない、って。
思えてきちゃう。
駄目なのに。
しーちゃんを切ることなんて、出来ないくせに。
優生のことも。
失いたくない。