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依存愛-彼と過ごした3000日-

第8章 甘い蜜の、対価、代償


「花ちゃんは、何歳?」

「え?」

急に降ってきた声に視線を合わせると。
さっきまでいたはずのお姉さんたちのかわりに、目の前には眼鏡をかけた30代後半くらいの男の人がいた。
カフェで挨拶した人。
さっき助け船出してくれた人。

「岩田さん」

岩田さん、と呼ばれた優しそうな人は。

彼が目の前に来た途端姿勢をただした優生の態度からすると、けっこう上の上司さん、みたいだった。

優生に続いて姿勢を正す。

「楽にしてて大丈夫だよ」

「あ、22、です」

「若いね、大学生?」

「社会人、です」

「そう」

あれ、終わり?

目の前でグラスを傾ける様子を黙って見ていると、視線に気付いた『岩田さん』は、笑顔で返してくれた。

沈黙が、痛い。

なにか話すべき?

話すって言っても、なに話せばいいのかな。

とりあえず、烏龍茶に手を伸ばしながら優生を見上げてみる。


「綾瀬は」

「え」

突然再開した会話に、パッと優生から視線を岩田さんに急いで戻した。


この人。

タイミングわかりずらい。

「優しい?」

「え?」

顔はそのままで、涼しい顔でビールを飲んでいる優生を見上げて。

「優しい、です」

敢えて視線を外してる様子が、すごくバレバレ。

「綾瀬ね、半年くらい前から仕事終わるとすぐ帰るようになって。いつもはけっこう遅くまで飲んだりしてたんだけどね。つい最近聞き出したら、彼女出来たってゆーから」

あ、むせた。

上司の話を聞きながら、優生を観察。

「モテるでしょ、綾瀬」

「……………………はい」

とりあえず頷いて見るけど。

やっぱり、モテるんだ。

「職場でも綾瀬狙いの子何人かいてね、でもずっと誰とも付き合うことしないから、職場では男が好きなんじゃないかって噂まででたんだよ」

「えぇ?」

これには、当の本人も驚いたみたいで。

盛大に、吹いた。

「わ、優生」

まわりに飛び散るのはなんとか耐えたみたいだけど、吹き出すかわりに全部飲み込んだらしい。

真っ赤になって咳き込んでる。

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