第8章 甘い蜜の、対価、代償
トントン
7時半。
優生の職場近くのカフェ。
窓を叩く音で、意識を外に向けると。
スーツ姿の優生と、目があった。
あれ?
道の向こう側をさして、手招きしてる優生に促されてカフェを出ると。
「ごめん、花」
「え?」
「今日、職場の飲み会あったの忘れてた」
カフェを出てすぐ、目の前で手を合わせる優生の勢いに、一歩後退。
「あ、そうなんだ。大丈夫だよ、楽しんできて?」
「━━━じゃ、なくて」
「え?」
笑顔で「いってらっしゃい」と続けるはずだった言葉が、もう一度目の前で両手を合わせる優生に、疑問系へと変化した。
「花も、一緒に来ない?」
視線だけ、もう一度道の向こう側に向ける優生に合わせて視線を送ると。
何人かの人たちが、橋の向こうから歩いてくるのが見えた。
「え、なに?どーゆーこと?」
「花に会いたいって」
「え、えぇ?」
えーと。
えぇ?
優生の職場の人たちってことだよね?
先輩とか、後輩とか?
女の人もいるじゃん。
「ほら花、良くここで待っててくれるじゃん。けっこう見られてんだよ」
「そんなこと言ったって………」
「みんなかわいいから目に付くって。今日もそれ、言われて。みんなにちょっと調子に乗って彼女です、なんて優越感かられて話したら」
「………ゆうのバカ」
「だからごめんて。そしたら紹介しろって」
「………そんなぁ」
急に無茶ぶり。
そんなの無理。
だいたい今日は。
だって。
そんな明るいラブモードな雰囲気の話じゃないのに。
今日は私……。
ほんとは………。
「花?」
俯いた私を、心配そうに覗き込む優生にあわてて顔、上げて。
「だって花、今日おしゃれしてない」
取り繕うように、膨れて見せた。
「花は何着ててもかわいいから大丈夫だよ」
「メイクも、直してないし」
「大丈夫だよ」
大丈夫じゃ、ないよ。
「……やっぱ、無理?」
申し訳なさそうに項垂れる優生の背中ごしに、優生の職場の人、とやらと目があった。
その、瞬間。
ドキンって。
心臓が跳び跳ねた。
なんで?