第7章 『混濁』
まさか。
って、思ったよ。
しーちゃんが誰かに嫉妬なんて今までなかったし。
と、いうより。
しーちゃんの関心はいつも花じゃなかったし。
だけど。
「嘘…………」
「自分で言っといて、赤くなんないでくれる?うつる」
「だってはじめてだもん」
「……今までは、ちょっと自惚れもあったから」
「え?」
ぼそっと呟かれた言葉の意味を、聞き返してみる。
「花、誰と付き合ってもあんま本気じゃないの、感じてた、し。」
ドキン
て。
急に向けられた視線に心臓が跳ねた。
「花は、昔から俺一筋だったじゃん?」
なん、で。
そんな複雑な表情、するの?
しーちゃんは、自分のお気に入りのおもちゃ取り上げられて取り返しただけでしょ?
今まで全然遊んでなかったくせに、他の子が遊ぼうとすると必死でおもちゃにすがり付く子供みたいに。
ただそれだけの感情、だよね?
「今も、俺一筋じゃないの?」
まっすぐ視線を前に向けながら。
ひじ掛けに左肘をついて、口元に手を添えるのは、昔からのしーちゃんの癖。
迷った時、不安な時。
ケンカした時。
いつもそーやって口元押さえるの、気付いてる?
顔を隠すみたいに、誤魔化すの、気付いてる?
照れてるの、不安なの、無意識に隠そうとしてるの、花ずっと気付いてたよ?
今、その癖を出してきたのは偶然?
気付いてて、全部計算してやってるの?
しーちゃん。
「………………そうだよ?」