第7章 『混濁』
もう、偶然でも計算でもなんでもいい。
おもちゃだろーがなんだろーが、なんでもいい。
遊ばれてるだけだって。
ただその場限りの偽りだって。
いい。
「花はしーちゃん一筋だよ?」
どんな形だって、しーちゃんが花を取り返そうとしてくれるなら。
またすぐに飽きちゃう玩具でも、いい。
「ずっと、ずっとしーちゃんだけだよ?」
それだけでいい。
何も、余計なことは考えない。
しーちゃんが妬いてくれた。
その事実だけが、真実。
「俺もだよ」
ひじ掛けにおいてあった左手が、花の右手に絡まった。
「花と結婚したかったな」
「…………………」
何も、考えない。
余計なことは、何も考えたくない。
わかってる。
こんなの不倫の常套句。
そんなのもわからないほど、子供じゃない。
だけどしーちゃんがそれを望むなら。
花はいつまでだって子供でいるよ。
なんにも気付かない、子供でいるから。
だからお願い。
このまま、今だけ花のものでいて。
過去に戻ることはできなくても。
未来を変えることはできなくても。
今この時を、止めることはできる。
あと1時間。
このドライブが終わるまでは、この時間は止まったまま。
何も考えないで、しーちゃんの隣にいたい。
現実を、思い出したくないの。
この濁った世界が、私には心地いい世界。
私の世界はもっともっと前から。
汚染されてる。
もう戻れない。
片道切符の電車はもう、走りだしちゃったんだから。