第7章 『混濁』
職場を出てから、1時間くらい車を走らせたあと、見覚えのない場所で車は停まった。
「ここ、どこ?」
真っ暗な中に浮かぶ隠れ家的なその佇まいが、幻想的で目を引く。
「こーゆーの、好きだろ?」
お店の中はひとつひとつ、大きな洞窟をイメージしているのか、全て区切られて個室になっている。
外見と違って、中はけっこう広い。
通されたのは、ふたり用のカウンター。
洞窟の穴から背中を向けて座ると、目の前には大きな壁。
そこには、大きな水槽が置かれていて、中では小さなお魚がたくさん泳いでいる。
このお店の壁が全部、水族館のような大きな大きな水槽でできているんだ。
「きれー」
ライトアップされた水槽は、幻想的で。
思わず見いってしまうくらいに、綺麗だった。
メニューをみると、アルコールがたくさんある。
アルコールの写真は、どれもお洒落なものばかり。
アルコール以外にも、ちゃんとディナーも用意してあって、パスタにオムライス、ハンバーグ、ステーキ、けっこう何でも揃ってる。
あ、しかもデザートすっごい美味しそう。
「しーちゃん、どーしたの、ここ」
「前に来た時、花好きそうだなぁって思って覚えてたんだ」
『誰と?』
って思わず聞きそうになった言葉を、なんとか飲み込んだ。
他の女の人の話は、聞きたくない。
「……………しーちゃん、結婚したんだから女遊び止めなきゃだめだよ」
視線をメニューに合わせたままで、顔だけで、笑った。