第7章 『混濁』
「そんなこと、知ってたよ?」
花はどーやったってしーちゃんの一番にはなれない。
花がどんなに愛してたって。
しーちゃんの中には花はいないもん。
はじめから、そんなことわかってた。
わかってたよ。
「花」
わかってた、けど。
苦しい。
改めて、そう言葉にされると、言葉として認識しちゃうと。
苦しいよ。
「今ならまだ大丈夫だよ花。綾瀬さんとこ、戻れるよ。結城とは会わないって、なんもないって言ったばっかだよ?」
職員専用の出入り口は、駐車場が目の前にある。
おかげで、車の音で心臓の音がかきけされた。
「うん、言った」
だってそれはもう、会えない、って、思ったから。
「綾瀬さんは?また傷付けるの?」
「…………」
また、傷付ける……。
優生。
ぎゅ、と、目を閉じた。
わかんない。
優生は、大事。
大切。
なくしたくない。
だけど。
だけど。
………会いたい。
なんにも考えないで。
なんにも、結果だとか感情だとか。
そんなのなんにも考えないでいいなら。
会いたい。
やっぱり私、しーちゃんに会いたい。
「今どっち選択した?」
「え」
「決めた顔、してる。どっち選んだ?」
「……━」
「花!!」
両肩に、さくらの掌が触れる。
「ご飯行こう?さっき行くって言ったよね?」
「うん」
「花」
安堵したように表情を緩めるさくらから、一歩後退。
「花?」