第7章 『混濁』
誰もいない更衣室。
心臓の音だけがうるさく響いた。
「行くの?」
「え」
「会いに。…………行くんでしょ?」
しーちゃんに、会いに?
「花」
澪。
「花、結城が何したか教えたよね?別れる、って。付き合おうって言ったそばから他の女妊娠させたんだよ?知ってた?結城さくらちゃんにまで手出してたんだよ?」
え。
「告白、された」
澪のいきなりのカミングアウトに、思わずさくらへと送った視線。
「花がいるから、そんなの考えたことないって、断ったの」
いつ?
それは、いつの、話?
「修くん、言ってたよ?花は関係ない、勝手にそばにいるだけだって。花のこと、都合のいいように扱ってるだけだってあたしがいったら、笑って肯定したんだよ?いいの?そんな男、なんで忘れられないの?」
「………………………」
「ずっとずっと、修くんの都合のいいように使われていいの?奥さんも子供も、いるんだよ?なんでそうまでしてあんなやつなの?」
『奥さんも子供も』
勝手に、頭の中から司令が送られてくる。
心とは別の意識が、体が、反応した。
「花、そんな言葉ひとつで傷ついた顔なんてしないで。綾瀬さんがいるんだよ?傷つくんだよ?」
優生。
そう、優生が傷つくのは、見たくない。
「花、修くんは、花のことなんてほんとになんとも思ってないんだよ?ヤりたい時にやらせてくれる、そんな認識だよ?」
「…………………うん」
知ってる。
知ってた、けど。
改めて言葉にされると、けっこう苦しいもんかも。