第6章 嘘と隠し事の、境界線
「ただいま」
ガチャン、て鍵のあく音がしてからすぐに、キッチンにこの家の主が顔を出した。
男の人の一人暮らしにしては広いこの部屋。
玄関入って小さな廊下を通ると、小さなキッチン。
小さいながらも対面となってるキッチンと同じ部屋には、ソファとテレビが置いてあって。
その横に寝室がある。
家族用に建てられたアパートなのかな、とも思う。
「お帰りなさい」
「いい匂い、カレー?」
「材料がなかったので、お肉ないですけど」
鍋の材料をかき混ぜながら答えると。
「……………………そう、ですか」
明らかにガッカリした声。
だって、仕方ないじゃない?
こんな格好で買い物だって行けないし。
「大分声もとに戻ったね」
「うん」
「遅くなってごめんな?」
リビングの中央にかけてある時計は、まだ6時をまわったばかり。
7時を目安に作ってたから、できるまでもう少し。
ちょっと早すぎるくらい、です。
「具合、どぉ?」
「へーきだよ?」
額に手をあてる優生を見上げて、そう答えると。
「熱は出てないみたいだな。よかった」
笑顔で、そう返された。
「花より優生のが心配だよ。少しまだかかるから、テレビでもみて休んでて?」
「俺も手伝うよ。サラダ作る?」
「花がやるから、休んでて!」
腕捲りを始めた優生を嗜めて。
わざとらしく両手を腰にまわす。
「はいはい」
腕捲りをした両手をシンクで洗うと、面白くなさそうにソファに向かう優生。
ソファに座ったのを確認すると、シンクに残った食器を軽くゆすいで食洗機の中へ。
冷蔵庫を開けると、この前作った春雨の残り。
キュウリにハム、たまご。
あとはお菓子とビールくらいしかない。
男の一人暮らしなんて、たぶんきっとそんなもんなのかな。
そんなことを考えながら冷蔵庫を閉めて。
キッチンに向き直ると。
あれ?
さっきまでパチパチテレビのチャンネルを変えていた音が止んで、ニュースが流れてる。
そーっとキッチンからソファをのぞくと。
ソファに窮屈そうに横になってる優生の姿。