第6章 嘘と隠し事の、境界線
「一緒にいてやれなくて、ごめんな」
「へーき」
「7時頃には帰るから」
それだけ伝えると、また重いドアの向こうに優生は消えてった。
冷たいペットボトルを、一口口に入れると、じんとする喉が気持ちいい。
喉が潤ってく。
ヨーグルトだけ先に食べて、頭を働かせてから、シャワーへ向かう。
ベッドから起き上がってはじめて。
Tシャツ1枚しか着てないことに気付いた。
下着も、着けてない。
大きな優生のTシャツは、私にはワンピースのように長い、けど。
これ、優生が着せてくれたんだよね?
今さらながら、また顔の火照りがぶり返す。
ぶんぶん頭をふって、あたたかいシャワーを、浴びた。
確か前に起きっぱなしにしたお泊まりセットがあったはず。
ごめん。
クローゼット、勝手に開けます。
きちんと掃除の行き届いた部屋と同様、クローゼットの中もきちんと整えられている。
クローゼットの下にある収納ケースの上に、目的のお泊まりセットを発見。
下着と、メイク落とし、洗顔、化粧水一式。
よかった。
あった。
残念ながら、当たり前だけど洋服は見当たらない。
あんまり自分のものが彼の部屋に増えていくのは、好きじゃない。
いつも長続きのしないお付きあいは、彼の部屋に自分の居場所を作ることを、いつのまにか好まなくさせた。
別れたあと、悲しいから。
私の部屋に、彼のものが増えたことも、ない。
私の部屋にあったのは、しーちゃんのものだけ。
しーちゃんの以外の人の私物が、私の部屋のスペースを占領したことは、1度もない。
そのしーちゃんの私物も、あの部屋を引っ越す時に全部処分した。
しーちゃんと別れたあの夏。
しーちゃんの匂いや思い出の残るあの部屋にはいられなくて。
すぐに引っ越した。
ラインも携帯もそのままにしておいたのは。
『期待』
もしかしたらまた、連絡がくるかも。
そんな期待があった。
だけどもう。
だけど。
ほんとにもう。
やめる。