第6章 嘘と隠し事の、境界線
にげ、る?
優生から?
「………」
怖い。
怒ってる。
怖くて、逃げ出したい。
今すぐにでも逃げ出したい。
でも。
浮気、したんだ。
普通なら浮気したらすぐに別れ話になるはず。
だけど優生は。
私に、選ばせてくれてるんだ。
私にチャンスを、くれてるんだ。
ここで逃げ出したら優生は絶対に戻ってきてはくれない。
二度と、私に触れてくれない。
「………それが、答え?」
動かない私に、突き刺さる視線。
コクンと小さく、頷いた。
「……っ!!ゆ…っ、待って!!」
「待たない。逃げなかったの、そっちだろ?」
「逃げないよっ、ちが…っ、まだ髪、濡れて……」
言葉を紡ぐはずの唇は、役目を果たす前に飲み込まれた。
吐息ごと奪われる口付けに、だんだん呼吸が苦しくなる。
「……っは、……っ、待って、ってば」
逃げても逃げても、重なった唇から入ってくる熱い舌は、傍若無人に口内を暴れまわり、見つけ出された舌を吸い上げ、さらに深く絡みとるのだ。
まだ水滴の残る髪の毛も、体も。
濡れたまま浴室から連れてこられたせいで、ベッドを構わずに濡らしていく。
いくら待ってと訴えても。
息も出来ないくらいのこの熱い口づけからは解放されるわけもなく。
ただただ、自分の体で濡れていくベッドに身を預けるしか出来ない。
「気持ち悪いなら、服脱いじゃうか」
「え」
バサッと、自分の来ていたジャケットとシャツを床へと落とすと。
優生はそのまま私のドレスまで、脱がしていく。
「待って優生っ!!明るいの嫌っ」
「今日は優しくするつもりないんだ、悪いけど」
「━━━っ」
背中のファスナーを下ろすと、優生は私の腕を引っ張りそのまま上体を、起こさせた。
と、同時に。
水を含んだ重いドレスは重力どーり、腰の辺りまで下がって行く。
「優生……っ、やだ……っ」
「なんで?暗くちゃキスマークわかんないし」
「ないよ!そんなの…っ、なんにもしてないからっ」
「だから、確認してんでしょ」
「━━━━っっ」
同時に下着まで取られ、明るい部屋の中、晒される肌。
羞恥に震えながら両手で胸を隠せば。
それさえも簡単に両手首をとらえて叶わなくなる。