第6章 嘘と隠し事の、境界線
「ごめ……………っ優生」
「なにが?」
無表情に向けられた低い声が、答えた。
「なんで、謝るの?」
「……ごめんなさ……っ」
「だから……っ、なんで謝るんだって聞いてんだよっ!!」
「━━━っ!!」
私に馬乗りになったまま、優生の右手が思い切り高く、上がって。
次の瞬間予想される痛みに両目をぎゅっと閉じた。
けど。
「すっげーむかつく」
そのまま優生の両の拳は、私じゃなくてふかふかのベッドへと着地、して。
吐き捨てるように私の耳元でそう、呟いた、あと。
ぐい、って。
強引に私の右手を引っ張って。
連れてこられたのは浴室。
「ゆ、ゆう?」
無言で向けられた表情。
いつもならこんな乱雑に、壁に叩きつけない優生の行動に驚いてあわてて優生を見上げれ、ば。
「……きゃぁっっ!?」
急に上から降ってきた水しぶきに、思わず足がもつれて座り込んだ。
なに。
つめ、た……………っ
容赦なく降ってくる水しぶきに、両手を使って抵抗するけど、そんなのなんの意味もない。
「その匂い、吐き気がする」
シャワーの音が響いて、優生の声がよく聞こえない。
「優生」
徐々にあったかくなるシャワーから出る湯気のせいで、優生を見上げるのが困難になってきて。
いっこうに衰えることをしない水の勢いに、息をするのも苦しい。
だけど。
「花」
湯気で表情が見えなくても聞こえた、初めて聞く低い、声。
ドクン
て。
心臓が嫌な音を、立てる。
「━━━━━っ」
怖い。
はじめて、優生を怖いと思った。
はじめて、逃げたいと思った。
でも。
違う。
優生はもっと痛い。
私、優生を傷つけた。
傷つけたんだ。