第6章 嘘と隠し事の、境界線
消えちゃいそうに柔く、表情で取り繕った笑みはすぐに歪んで。
辛そうに、優生は私へと視線を向けた。
「気付いてないと思った?」
昨日自分でつけた『跡』を、指先でなぞりながら。
「二次会で、ずっとこっち見てた、『彼』でしょ」
その跡の上を、舌が這い回る。
「なにか、あった?」
ピリッとした痛みに、一瞬だけ顔を歪めると。
「酔っ払った花、ずっと見てたよ、『しーちゃん』」
「え?」
「あんな目で自分の彼女見られてたら、嫌でも気付くよ」
「ゆ、う?」
首筋を這い回る舌の感触が消えたと思った、瞬間。
「━━━━い…っ、た……っ!」
思いきり、噛みつかれた。
予想もしなかった痛みに、頭がパニック。
痛すぎて、頭がガンガンする。
痛い。
痛い。
ジンジンする。
熱い。
食いちぎられたかと錯覚するくらいの、痛み。
「『上書き』」
「え?」
「こんなとこ、跡簡単につけられんなよ」
『あと』?
「あいつに、なにされたの?」
表情のない優生を、はじめて怖いと思った。
「なに、したの?」
無表情で見下ろす優生に、必死で首をふる。
「こんなとこ、これ見よがしに跡つけられて、あいつと同じ匂いさせて、何もない?」
「ゆ……………っ」
声が、掠れる。
「最後まで、した?」
「してない‼してないよ」
「じゃ、なに、したの?」
「…………………っ」
「なにされたって聞いてんだよ、花」
顔の横に、両手をついて、優生との距離が縮まる。
花の上を跨ぐ優生の重みで、ベッドがきしんだ。
「花」
「…………………っ」
「答えろよ、花」
温度のない声色に、背筋が冷たくなった。