第6章 嘘と隠し事の、境界線
「ち、ちょっとタイム!」
近い。
近いってば。
両掌を顔の前で交差させてガード、すれば。
拗ねたように優生は、明らかに不機嫌に。
あたしの両手首を両手で掴んだ。
「これ何」
「や、だって近い、から」
「思い出させてあげるんだってば」
「近付く必要、ありますか?」
「あるよ。もいっかい、飲ませてあげるから」
「……っ、ぃい……っ、それっ。なんとなく、わかったから、それさっき飲んだ、お酒でしょ?」
「なんだ、思い出した?」
「飲んだ、ことはなんとなく、思い出しました」
あの甘い味は確かになんとなく舌に覚えがある気もするから。
たぶんやっぱり、あれがお酒なら酔って記憶をなくしたことは明白な気もするから。
「でも、俺いないとこで酒絶対飲まないで」
「え」
あれ。
これどっかで、聞いた?
誰かにもおんなじこと、言われた気がする。
「酔ってるときの花、隙だらけ」
「え?……、そ、…っか、な」
コツン、と額を軽く合わせる、優生。
目の前に、優生がうつりこんで。
ドキン、て。
心臓が、鳴った。
「無意識なのかなんなのか、無防備すぎ。破壊力、ありすぎ」
「え、え、えぇ?」
額を合わせる優生から、顔を離そうとすると。
後頭部に右手が置かれて。
「………っ」
逃げ場を失った。
「キス、してもいいですか」
「え、えぇ?」
「いいですか」
逆にこの距離でそれ、聞きますか。
頭の後ろに回された右手は、離す気なんてないくせに。
いや、なんて言葉を受け入れる気もないくせに。
それを聞いちゃいますか。
優生のが破壊力ありすぎだよ。
「え、えと、あの」
だけど。
至近距離で見つめられる恥ずかしさに耐えられなくて。
「……………はい」
と、肯定した瞬間。
ほんと、肯定したと同時くらいに。
さっきのんだ甘いカクテルの味がする唇が、重なった。