第1章 夜暁
やばい。
これは、やばい。
どーしよう。
手は、どこに置けばいいの?
呼吸は、いつ、すればいいの?
頭の中、パニック。
思考回路、オフ。
「…………………………は………っ」
離された唇から入ってきた少量の酸素を味わう時間もなく、また、唇が塞がれた。
だけど。
だけど。
「……………ま、ま、って………っ………」
「なに?」
「も、無理…………っ頭が、ついていけない」
明らかに、不機嫌な声が聞こえたけど。
無理なものは、無理。
両手を精一杯つっぱって、しーちゃんとの距離をとろうとする、けど。
おかまいなしに、また、唇が塞がれた。
「修、くん……………っ」
ほんとに、無理。
キスって、こんなにえっちにするもんだっけ?
ドラマで見るのと、全然違う。
こんなこと、これ以上のこと、するの?
「も、無理」
なんとか顔をそらして、両手を顔の前まで持ってくると。
明らかに不機嫌なため息と一緒に、彼の声が、降ってきた。
「花は、今まで付き合ったこと、ある?」
「…………ない、です」
告白すら、されたことなんてない。
「………?」
いきなりぎゅーって抱き締められて。
狭い車内じゃ、身動きがとれない。
「こんなにかわいすぎるのに、みんな見る目ないな」
「あの、修、くん」
「んー?」
「ごめん、花、全然慣れてなくて、あの………」
「反応見ればわかるよ」
「………っ」
「次はこんなもんじゃないから、覚悟しといて。やめる気もないから」
さらっといってのけたその言葉でまた顔が赤くなる。
修くんは、慣れすぎだよ。
なんなの、あれは。
みんな、あんなことするの?
キスって、あんなえっちなものなの?
ひとり悶々としてる花に、隣に座り直した彼、は。
「帰りますか」
そーいって、花の右手に自分の左手を絡めなおして。
車のエンジンを、かけた。