第4章 再会
だけど。
「しーちゃん」
行こうとするしーちゃんの背中に、声をかける。
「何?」
「なんで?」
こんな気持ちのまんま、式になんて出られないよ。
何考えてる?
しーちゃんにとってあのキスは、何?
「なんで、キスなんてするの?」
あんなキス。
あれは、恋人にするキスだよ?
奥さん、いるんだよね?
「なんで、って」
そのまま私に向き直るしーちゃんは、いつもみたいににっこりと笑って。
「花が好きだから、デショ?」
いつもの甘い声で、そう言った。
「……………………っ」
全身の血液が沸騰する。
わかってる。
騙されちゃ駄目だ。
しーちゃんに流されたら、だめ。
わかってる。
だけど。
しーちゃんのそんな言葉ひとつで、私の体は反応しちゃう。
血液の温度が沸点に達したせいで、体中、たぶん真っ赤だ。そしてそれは、目の前にいるしーちゃんにも伝わってる。
「花も、俺のこと好きでしょ」
また、体が動かない。
真っ赤になったまま俯く私に一歩近づくと。
「いつもより背、高いからいちいち屈まなくても花の顔よく見えるな」
頬に触れる手のひらが、あたたかい。
「ねぇ花、やだ、って、なんで?」
「え?」
「さっき、抵抗したのは彼氏に悪いから?」
「………………え」
しーちゃんの言葉に、大きく目を開く。
優生。
そう、だ。
私さっき、優生のこと、一瞬でも考えた?
しーちゃんにキスされて、抵抗したのは、なんで?
なに、考えた?
先ほど沸騰したはずの血液が、一気に冷めていくのを感じた。
「ね?」
私の様子に、しーちゃんは目を細めて。
「花、彼氏より俺のこと考えたでしょ」
頬に触れる掌を、滑らせるように首筋まで下ろせば。
「俺が結婚してるから、さっき、そう言ったよね?」
昨日つけられた跡のところで、ピタリと動きを止める指先。
「花がそんなだから、こんなのつけられんだよ」
丁寧に、ストールを巻き直してくれるしーちゃんは、放心状態の花の手を引いて。
「そろそろ式、はじまるな」
重い扉をあけた。