第4章 再会
「ほんとに、明日送んなくて平気?」
「日曜仕事でしょ?」
旅行代理店に勤めてる優生は、週末は忙しい。
「タクシーって便利な乗り物、知ってる?」
明日着るドレスを試着中。
「知らない」
鏡越しにソファに座ってる優生に視線を落としながら。
「お金払うと、目的地まで連れてってくれるんだよ?」
ばっと、振り替えって大真面目に答えた。
「ずいぶん物知りになったな、花」
ソファから立ち上がった優生に促されて、また鏡の中にうつる自分とにらめっこ。
「優生がいつまでも子供扱いしすぎなの!」
「子供扱い、した覚えないけど?」
鏡越しに優生と目があって。
「こんな格好の花、ひとりになんてできるわけないでしょ」
「優生、だめ、跡つけないで」
後ろから、首筋に顔を埋める優生から一歩離れる。
…………はずが。
動けない。
「ほんと、跡つけるのやだ」
思いきり抵抗してるはずなのに、後ろから抱き締める手の力は全然緩んでくれない。
「優生!」
首筋に、ピリリと小さな痛みを覚えたのと同時に、抱き締める手の力が抜けて。
「あきすぎ。これで、なんか巻かないとね」
にっこりと笑う優生がはじめて悪魔に見えた。
首筋に、くっきりはっきりと、うっ血跡。
「……………っ」
澪にもらったペンダント、着けていく予定だったのに。
これじゃストール巻かなきゃ。
「迎え行けないから、保険」
「……………っ」
「楽しんできてね?」
澪の結婚式を明日に控えた夜11時。
真っ黒のドレスに、うっ血跡がよく目立つ。
満足そうに笑う悪魔を、はじめて憎いと思った。