第3章 砂のお城
「花が元気になれるまで、そばにいるよ」
夏が終わるとすぐに。
しーちゃんの思い出のたくさん詰まったあの部屋を引っ越して。
職場からほど近い、今のアパートに移り住んだ。
偶然にも。
ゆうちゃんのアパートからは、5駅ほど。
車で4、50分の距離だ。
その、言葉どーり。
ゆうちゃんは時間のあく限り花のそばにいてくれる。
秋の連休を前に、旅行代理店に勤める彼は忙しいはずなのに。
それでも。
1時間ほどの時間をかけて、私に会いに来てくれる。
「花」
そう言って。
花に笑いかけてくれるんだ。
「やっぱり、だめかぁ。忙しそうだよね。年末だし」
「すみません」
「別に期待してないからいーよ」
「それはそれで、男として微妙なんだけど」
「え?」
「なんでもない」
ゆうちゃんと再会して、そろそろ4ヶ月。
真冬の寒さが、すぐそこまで来てる。
「花は、今日何したい?」
「見たい映画あるんだ」
「いーよ」
『ゆうちゃん』は、いつも私を優先してくれる。
花のしたいこと。
花の好きなこと。
花が行きたいとこ。
全部、叶えてくれる。
たぶん、こんな風に愛されたら、きっとすごく幸せなんだろーな。
そんなことを考えられるくらいには、私の精神もだいぶ安定してきたんだと思う。
「花、またボーッとしてる。疲れた?」
「ううん、疲れてない」
「帰る?」
「大丈夫」
「じゃ、なんか食べてくか」
「うん」
きっと昔から、ゆうちゃんはこうやって花を見ていてくれてたんだ。
小さな頃から、当たり前にすぐ近くにいた。
中学の頃に、隣に引っ越してきた花に、いつも優しくしてくれて。
ゆうちゃんと同じ高校に行くために、家庭教師もしてくれた。
当たり前の優しさが。
すごくすごく、染みる。