第3章 砂のお城
澪の声は、優しくて。
抱き締めてくれる腕も暖かくて。
余計に涙が止まらなくなる。
だけど、ごめん。
こんなときにも思い出すのはひとりだけなんだ。
たったひとり。
花が欲しいのは、たったひとりのぬくもりだけ。
嫌になるくらいに。
花は、しーちゃん中心に回ってるんだ。
「花!久しぶり」
澪に言われたからってわけでもないんだけど。
お盆休暇と重なった3連休。
あの部屋にいてもただ辛いだけで。
久しぶりに、帰省した実家。
の、おとなりさん。
帰省した翌日に、『彼』は。
花の前に現れたんだ。
「元気してんの?」
暑い中、コンビニへアイスを買ってきた、帰り道。
いかにも今帰って来ました、と言わんばかりの荷物を背負って。
玄関前で家の鍵を探す私に、躊躇いもなく彼は声を掛けてきた。
「……ゆうちゃん」
「なんか、あった?」
「え」
「花、目が死んでる」
ゆっくりと振り返った花の瞳にうつったのは、いつもの優しい笑顔をしまいこんで、怪訝に顔を歪める幼なじみ。
「………仕事、きつい?」
体ごとゆうちゃんに向き直って、首を横にふる。
「先輩にでも、いじめられた?」
もう一度、首をふる。
「……………失恋、でもした?」
「………………」
「そっか」
答えない花に、微笑んで。
「時間、ある?」
彼は優しく、花に手を差し出してくれた。