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依存愛-彼と過ごした3000日-

第2章 朔


『次、いつ会える?』


ポケットで震える携帯の液晶に写し出された文字を目で確認してから。
それをしまって、アパートのドアを開ける。




8月ともなると、入った途端に死にたくなるようなもわんとした熱気。


「もう、死んじゃってもいーんだけどさ」


誰に呟いたわけでもない言葉は、すぐに受け止められることなく消えていく。







なんで生きてるのかも、わかんない。
朝起きて、仕事して、ご飯食べて、寝て。
繰り返し。
おんなじことの、繰り返し。





『花』

まだ、この部屋にはしーちゃんがいる。

『ただいま』

声が、聞こえるの。



リビングにあるのは、しーちゃんと一緒に選んだ真っ赤なソファー。
彼は、赤い色が好きだったから。
真っ赤なふたりがけのレザーのソファーは、しーちゃんのお気に入りだった。
ここで、いろんな話もしたし、たくさんの時間を過ごしたんだよ。
お風呂場には、まだしーちゃんのシャンプー残ってるよ。
クローゼットには。
赤いTシャツも、着替えもあるよ。


まだこんなに。
しーちゃんの存在を感じるのに。



「………………」



花が今ここで死んだら。
しーちゃんは泣いてくれる?
責任、感じてくれる?
ずっとずっと、花を忘れないでいてくれる?



手の中にあるのは、昨日もらったばかりの睡眠導入剤。



いつも思うの。
30日分のこれを一気に飲んだら、楽になれるかな、とか。
これを飲んで手首を切ったら、目が覚めないでいられるかな、とか。
でも実際。
30日分のこれを一気に飲んだって致死量にはならないし、手首を切ったら、痛い。
痛いのは、嫌だな。

なんて冷静に分析しちゃってる自分もいて。


結局、毎日1錠づつ、飲んでるわけだ。






カラカラカラ


窓を開けて、ベランダに出れば。
真夏のベタつく風が肌に張り付きながら通りすぎていく。


彼がそうしていたように、彼と同じ銘柄のタバコをひとつ、加えて。
火をつけると、あまり美味しいとはいえない煙が肺から抜けていく。
はじめの頃は蒸せるだけだったこのタバコも、今ではだいぶ上手になってきた。
味は、未だに美味しいとは思えないけれど。
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