第2章 朔
「花ちゃん、どこ行きたい?」
「……………映画館」
映画館なら、お話ししなくてもいいでしょう?
「花、って、呼んでもいいかな」
「ごめんなさい、呼び捨てされるの、スキじゃないの」
「……………花ちゃんは、何がスキ?」
「ハンバーグ」
「……ハンバーグ、美味しくない?」
「美味しくない」
しーちゃんと食べなきゃ、何を食べても味なんかわからない。
「花っ」
「なぁに、澪、珍しく大声なんて出しちゃって」
「なぁに、じゃ、ないっ」
「用件、言ってよ。花これ食べたらすぐに行かなきゃ」
「あんた今月何人目?男振ったの!」
「ふってないよ」
勝手に怒って帰ってくんだから、なんなら被害者は花の方。
「花」
「してるよ、澪のゆーとーりデート。仕方ないじゃない、つまらないんだもん」
「花」
しーちゃんがいなくなって、最初の夏が来て。
何人かの人に誘われるまま食事に行った。
だけど。
何を食べても味がしない。
どこへいってもモノクロの世界しかない。
しーちゃんを失った世界は、花には何の意味もないんだ。
「…………食べてる?」
「食べてるよ」
「寝てる?」
「けっこうぐっすりと」
「花」
「んー?」
「どうしたら、また笑ってくれる?」
「何それ、笑ってるよ?失礼だなー、澪は」
あはは、って。
笑いながら立ち上がる。
うん。
休憩時間、少ないんだよ、今日。
「じゃぁねー」
片手でヒラヒラと手を振って。
笑顔。
そう。
大丈夫。
ちゃんと笑ってるよ。
得意だもん、笑うの。
ちゃんと、笑ってるよ、澪。