第2章 朔
愛してくれるの?
しーちゃんは、一瞬でも花を愛してくれた?
「花、愛してる」
『愛してる』
しーちゃんにそう言われるたびに、苦しかった。
「花も愛してる」
所詮、こんなの免罪符。
自分たちの罪を逃れるための。
だけど。
愛があるなら、何をしてもいいわけじゃない。
妻と、彼女は違うんだ。
いくら『愛してる』なんで囁いたって。
そんなのもう、免罪符でもなんでもない。
結婚したなら。
子供がいるなら。
それはもう、立派な『罪』なんだ。
免罪符なんて、存在しない。
彼が、免罪符代わりに囁いた愛の言葉を、信じたかった。
愛してる、なんて。
そんなの嘘でも。
信じさせて欲しかった。
全力で。
騙して欲しかったんだよ。
騙してよ。
最後まで、嘘をつきとおして。
『結婚する』
『子供出来た』
いらない。
そんな報告、望んでなんてない。
どうせならずっとずっと騙して欲しかった。
笑顔で嘘ついて。
奥さんにも子供にも愛を囁くその唇で、花にも愛を語ってよ。
最低なままで、どうせなら嫌いになるまで嘘をつきとおして。
「………………っ」
涙は拭っても拭っても溢れてくるのに。
比例するように後悔だけが増えていく。
なんで手を離したの。
笑顔で花を抱くしーちゃんの嘘を、なんで受け止めなかったの。
自分で決めたのに。
バカで都合のいい女、最後まで演じるって。
しーちゃん。
しーちゃん。
やっぱり花は、しーちゃんがいないと生きていけないよ。
まだ残ってるの。
しーちゃんの体温、ぬくもり。
匂い。
全部残ってるんだよ。
なんでいないの、しーちゃん。