第2章 朔
涙が止まらない。
ベットに横たわったまま、体が動かない。
しーちゃん。
しーちゃん。
いかないで。
花のそばにいて。
大好き。
愛してる。
しーちゃんが最低な男だって。
はじめから知ってた。
でも。
だから、私はここにいる。
彼の最低な優しさ。
中途半端な、気持ち。
それを利用してそばにいたのは誰でもない。自分なんだから。
『大好き』って、言ってくれた。
しーちゃんが最低な男じゃなかったら。
しーちゃんがいい人だったら。
私はここにいない。
しーちゃんのそばにいられなかった。
しーちゃんの、ぬくもりを知ることもなかった。
私には、しーちゃんは誰よりも、優しい人。
「結城がいなかったら、花はこんなに泣くこともなかったんじゃないの?」
なんでこんなとき、澪の言葉を思い出すの。
違う。
違わない。
しーちゃんのそばにいなかったら。
こんな辛い思いしなかった。
しーちゃんを思って、泣くこともなかった。
出会わなければ。
あの日。
しーちゃんに出会わなければ。
もっと幸せな恋ができたのかな。
澪みたいに、愛されることの幸せ、手に入れてたのかな。
「…………しー、ちゃ」
大好き。
大好き。
誰よりも愛してる。
何を犠牲にしても愛してる。
届くことのない名前をいくら呼んだって。
彼はもう、いないのに。
今ならまだ、しーちゃん許してくれるかな。
電話すれば。
またしーちゃんは花を愛してくれるかな。