第1章 馴れ初め
「……やっぱり、食事の誘いを受けておくべきだったかな…」
時は夕暮れ。
クラシックな雰囲気が売りのお洒落なカフェの中、異界人たちの籠城の為の人質の一人となり、ぽつりと一言溢すのであった。
このような事態に陥った理由は極めて単純である。
ミスタ・ラインヘルツが帰ったあと、街で人気のショッピングビルに納品に赴き、帰り道でカフェを見つけ入店。
そこに武装をした異界人たち5人が急襲。まあよくある話である。
最近、異界人による強盗事件が相次いでいるとニュースで見ていたので彼らのことであろう。
運が悪い、その一言に尽きる。
「おいヒューマ!なにノロノロしてやがる、早くカネ積めろ!コロすぞ!」
「っひぃ!」
バキィ!と鈍い音が響く。
強盗集団の一人が店員の男性を殴り、壁に叩きつけのだ。
それを見たレジ係りの店員が怯えた悲鳴をあげ、震える手で異界人から押し付けられた袋に紙幣を詰め込んでいく。
強盗集団たちは紙幣の入った袋を奪い取ると、中身を確認しヒューっと口笛を吹き、ギャハギャハと気味の悪い声で笑う。
酷く気分が悪い。
人質の一人となり何も出来ない自分に苛立ちと、また恐怖の心が襲ってくる。
いくらヘルサレムズ・ロットではよくある話とはいえ危険な場面に直面した機会は多くはない。
どうしても、恐怖で足がすくんでしまう。
ちらりと店の周りを見渡す。
まだ警察は到着していないようだ。
「おい!そろそろ警察がくるかもしれねぇ!ズラカルぜ!」
「わかった、ちょっとマテ」
店の入り口で外を警戒していた異界人が叫ぶと、店員から金を奪い取った異界人が返事をする。
ガチャリと、武装していたーーマシンガンなのだろうか、銃を持ちなおし私とは反対の位置に囚われた人質たちに向けられる。
人質たちを殺すつもりなのだろうか。
思わず、傍に落ちていた食器を掴み引き金を引こうとしていた異界人に投げ付けていた。
…バカだなぁ、私。
「ーーイッテェなこのヒューマ!まずはテメェから死にてえってか!」
「ぐぅっ…!!」
異界人に胸ぐらを捕まれたと思うと激しく床に投げつけられ息が詰まる。
体が痛い。叩き付けられた衝撃で体が悲鳴をあげるのを感じた。
ーー殺される。
怒りに顔を歪ませた異界人が私に銃口を向けたのを視界の端に捉え死を覚悟した時、敵の上半身が吹き飛ばされていった。