第1章 馴れ初め
「この薬は目にしみますので、少しの間目を閉じていてください。終わりましたら声をかけますね」
「承知した」
腕を捲りながら待っていたミスタ・ラインヘルツのすぐ傍に私も座る。
消毒をしながら彼に声をかけるとなぜか顔を微かに赤くしながら私をちらっと見、エメラルドの瞳を閉じた。
…なぜ顔がほのかに赤いのか。
疑問を抱いたが彼の瞳が閉じられているのを確認し、
彼の傷口をひと撫でする。
切傷なのだろうか、何か鋭利な刃で傷付けられているような深い傷。
どうして彼がこのような傷をつけられたのかはわからないがすごく痛そう。
もう一度、エメラルドが開かれていないことを確認すると薬箱から軟膏を取り出し傷口に塗り、傷の大きさに合わせた大きめの絆創膏を貼った。
「終わりましたミスタ・ラインヘルツ。3、4日すれば傷は治ると思うので、それまではこれを剥がさないように」
「ありがとう、君の薬は実に治りがはやい」
彼に声をかけながら席を立つ。
こんな私の拙い処置でお役にたてるならなにより。
ミスタ・ラインヘルツはよく怪我をしている。
よく来られるようになったはじめの頃は気付かなかったがふと見るとどこかしたら擦れたり切れたり。
気付いたときは今回のように傷の処理をするようにしている。
一体どんな生活をしているんだろう?
何か危険な生活をしている?それともただのおっちょこちょい?
肉付きの良い身体つきを考えると前者もありえそうだが、意外と後者もあり得るかも。
「それではまた明日、ミス・ハヅキ」
ミスタ・ラインヘルツは胸に手を当て軽く一礼し、にこりと微笑むと店をあとにした。
やっぱり明日も来るつもりかミスタ・ラインヘルツ。
お得意様が来てくれるのは店としては嬉しいけど、毎日食事に誘われるのは気が重いなぁ。