第2章 変化
暗い、暗い闇の中。
底知れぬ黒に覆われた世界で私は一人ぽつんと立っていた。
ここはどこだろう。
辺りを見渡しても何も見えるものはない。
光が無く真っ暗な闇の中で、ただ立ち続けているのもなんだか怖くて、前も後ろもわからぬまま歩きだす。
「…―――さんッ!やだ、!――さん!」
行く先も無く漠然と歩いていた先で、少女の悲鳴混じりの嗚咽が聞こえた。
なんて悲しい叫びだろうか。
背筋の凍るようなその声を聞いていたくなくて、思わず足を止め耳を塞ぐのに、声はより鮮明に私の頭に響く。
激しい雨、鋭く照り付ける光、押し潰すように襲う闇、濡れていく体、冷たくなっていく―――大切な、人。
「――あさん、死なないで!いま、治すからッ――」
「……やめて…」
「――あ、なん、で……」
赤く染まった手が少女の手を制するように重ねられる。
冷たくなる体なんて気にしていないような素振りで、少女に微笑みかけながらその人は口を開く。
いやだ、イヤだいやだ、こんなの見たくないッ!!
耳と目を塞ぎ蹲る私を嘲笑うかのように、闇はより鮮明に、私に悪夢を突き付ける。
私にとって、最も聞きたくない、呪いの言葉を。
「生きて、ハヅキ」
「―――――ッッ!」
声にならない悲鳴をあげ、私は飛び起きた。
くらくらする視界と、荒ぶる心臓がうるさい。
目の前にあるシーツを固く握りしめ、乱れた心拍を整えようと深く息をする。
落ち着け落ち着け、大丈夫、悪夢からは抜け出した。
震える体をきつく抱きしめながら荒く息を整える。
何分間かそのようにしていていると、ようやくいつもの私を取り戻すことができた。