第2章 変化
「どいて頂いてもいいでしょうか」
「この防衛グッズが効果的であったのは君の過去の経験から認めることができよう。だが、これが効かない者が今後現れるかもしれない」
「…あの」
「その時ハヅキは身を守る手段を他に持っているのだろうか?私の知らぬ場所でハヅキが被害に遭うなど想像するだけで胸が痛い」
「…クラウスさん」
「君と連絡を取ることが出来れば救えたかも知れない、そのような後悔を私は抱えたくはないのだ」
「………」
「だからハヅキ、この哀れな男を救うと思って、どうか慈悲を」
懇願するようにエメラルドの瞳を揺らしながら男は言う。
てかこれ、選択権ないですよね。
いつの間にかクラウスさんの右手が私の顔の横に置かれ後ろにも横にも逃げらることができない。
そんな拒否を許さないような距離感で彼は私に問うが、半ばこれは脅迫に近い。
絶対にうん、と言うまで逃す気はないように見えるのですが。
どうにか断ろうと思考をフル回転させる私に彼は更にエメラルドグリーンを近づけて、くる。
「ハヅキ」
「わ、わかりました!交換します、いやさせてください!」
彼の胸元をぐいっと押しながら私は白旗を揚げる。
これ以上こんな小っ恥ずかしい状態でいるなんて耐えられない!
赤くなっているであろう顔を隠すように抑えながら、私は目の前の男に屈した。
クラウスさんは何故か一瞬残念そうな顔をのぞかせたが、すぐにその顔は消え、嬉しそうな笑みを浮かべながら携帯を操作し始める。
そんなに私が要求に屈したのが嬉しいのかこの人は。
ぐったりとした私とは裏腹にクラウスさんはその無骨で大きな手で軽やかにスマートフォンを操作し、あっという間に私の連絡先に『クラウス・V・ラインヘルツ』の項目が追加されたのであった。