第2章 変化
「これは何かね?」
治療が終わり服を整え終わった赤毛の紳士が問いかける。
彼が見ているのは先ほどまで私が調合していた緑の玉であった。
「自己防衛グッズです」
「この玉が?」
「はい。見た目はただの玉ですけど効果あるんですよ?」
クラウスさんに一つ玉を渡してみせる。
彼はその大きな手で小さな玉をつまむと関心の目をして眺めた。
このヘルサレムズ・ロットにおいて力のないただの人間は、異界人や訳ありの人間とって格好の標的にしかならない。
その中で生きて生きていくには何かしらの対抗手段が必要だ。
どんなに危険から逃れるようにひっそりと生きていたとしても、危害は向こうからやってくるのだから。
「これを地面などに投げつけると爆発してですね、眠たくなる作用をもった煙が広がるのでその間に逃げる、まあ時間を稼ぐ道具です」
「君に初めて逢った時に使っていたのはこれだったのか」
「そうですね。きっとあの時の三人組もぐっすりだったんじゃないでしょうか」
結構効果あるんですよ、これ。
ふふんと得意げに笑うとクラウスさんがふっと優しげに微笑んだ後、次の瞬間には深刻そうな顔をしていた。
「ハヅキは私の逢った時意外にも、これを利用した時があっただろうか」
「この街に住んでますからね。何度かは」
「そうか…。ならばハヅキ、私と連絡先を交換しよう」
「え!?」
どうして今の発言になったんだろう。
エメラルドの瞳はまっすぐに私を見つめると携帯を取り出し、ずいっと私に差し出した。
よく意味が分からず困惑し、一歩後ろに下がると彼もまた一歩私に歩み寄る。
また一歩、また一歩と後ずさりをして距離をとろうしたがクラウスさんもまた近づき距離が縮まる。
背中に壁がぶつかり、これ以上後ろに下がれないのを感じた。