第2章 変化
「その人って、ハヅキのこと好きなんじゃないの?」
「んんっ!?な、なに言ってるのビビアン」
友人からの発言に驚き、思わず丸飲みしてしまったご飯で喉が詰まりそうになった。
苦しくて流し込むため慌てて水を飲む私をにやにやと楽しそうな表情でビビアンは私を見る。
なんてことを言うんだ。
ここヘルサレムズ・ロットで出来た友人、ビビアンをじとっと睨むも彼女は愉快そうに笑うだけだった。
「だって、常連とはいえお客さんが毎日ハヅキの店にいく?私の店みたいな飲食店でもあるまいし」
「…彼は育てている植物の数も多いみたいだし、買うものや質問が多くなるのも仕方ないのよ」
「でも食事に誘われたりしてるんでしょ?ただの常連さん、なのに」
「…………」
ビビアンに話すんじゃなかった。
ハヅキは話してしまったことに悔やむが、後悔先に立たず。
彼女の追求が止まることはない。
「彼氏いないんだからご飯くらいいけばいいのに」
「お客さんとこれ以上に仲良くするなんて必要ないでしょ」
「もしかしたらお客さん以上の関係になれるかもよ?」
「そんな関係にはなりません!」
えー枯れてるー、なんてビビアンは冷やかすが、私には恋愛なんてする気はない。
それはクラウス・V・ラインヘルツだから嫌だ、とかそんなことではなく、そもそも私が色恋沙汰をしたくないのだ。
「でも私には、その人がハヅキのこと気になってるようにしか聞こえないんだよなー。こんな可愛い花もくれるし」
「もう!あんまりからかうと家から追い出すよ」
「あはは、ごめんってー」
ビビアンは笑いながら謝ると机上に飾っていた花から手を離す。
小さく可憐な白い花弁をつけたリナリア。先日エメラルドグリーンの瞳の男がくれた花。
クラウスさんがこの花を渡してきた時は動揺しそうな気持ちをなんとか抑えたことを思い出す。
リナリア―――花言葉は『私の恋を知って』
彼はただ自分で育てた花が立派に咲いたから、手土産代わりにリナリアをくれただけ。
それに秘められた思いなんて、
「そんなもの、あるわけない」
まるで自身に言い聞かせるように、ハヅキは小さく呟いた。