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エメラルドグリーンに溶けて

第1章 馴れ初め


「それがハヅキとの初めての出逢いであった。危険を省みず他者の為に身を動かすことができる、ハヅキは尊敬に値する女性だ」


クラウスは紅茶を一口飲むと、恍惚とした息を吐く。
閉じられたその瞳は、きっと当時のことを思い出しているのであろう。


「凄いですねそのハヅキさんって人」

「そうだな。ザップにも見習って欲しいくらいだ」

「俺は慈善じぎょーになんて興味ないっつの」


けっ、とザップは悪態をつきながら返事をした。
折角クラウスのプライベートをつついてみたが、思っていた女関係の話ではなく期待はずれだ、という顔をしているようだ。


「陰毛、メシ食いにいくぞ」

「ちょっ!引っ張んないで下さいよ!」


ザップは席を立つとレオナルドを無理矢理連れて執務室を出ていった。
今日は街でも大きな事件は起きてはおらず至急ライブラで対応すべきことはない。
騒がしい二人を見送り、スティーブンも書類仕事に戻ることにした。

……のだが、無言のまま問い掛けるようにスティーブンを見る男に気が付き、その意図にため息をつく。


「……クラウス、そう簡単に加入させる訳にはいかない」

「しかし彼女はか弱きものを守ろうとする正義を心に持つ人だ。ライブラにふさわしい人物であろう」

「たしかに彼女の行動が評価に値するのは分かる。だけど、君を助けたのが罠だとしたら?」

「スティーブン」

「そう怒るなよクラウス。疑り深いのは僕の性分でもあるし組織を守るためでもある。わかるだろ?」


クラウスの鋭い眼光にスティーブンは肩を竦める。
彼は秘密結社ライブラのトップであり、ライブラの情報を欲しがる裏の輩どもは計り知れない。
ハヅキ・ヨシカワという女性がクラウスに悪意を持って近付いてきたのかもしれない。

彼がなんと言おうと、手放しで善行だけを信じきることなど出来はしないのだ。


「あまり彼女を信用し過ぎるなよ」

「……うむ」


クラウスは不服そうに返答をするが、スティーブンに異を唱えることはなかった。



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