第1章 馴れ初め
「すまないが君たちに貸す金はない」
「…あ?状況わかってんのか?」
「素直に金出したほうが身のためだぜ」
「断る」
いくら怪我をしているとはいえこんな三人組に屈するクラウスではない。
きっぱりと拒絶すると三人組はイラつきを露にし、実力行使で金を奪い取ろうと獲物を構える。
応戦しようとクラウスもナックルを構えたとき、女性の声が響いた。
「なにしてるの!やめなさい!」
「んだテメェ、関係ねえ奴はひっこんでろ!」
「襲われてる人がいるのに見過ごせるわけないでしょ!」
声の主の女性はクラウスを庇うように三人組との間に立つと威勢よく声を放つ。
栗色の髪を一つに束ねた、クラウスよりもはるかに身長が低く細身な女性。
肩から鞄を一つ提げた、普通の女性のように見えた。
「大丈夫ですか?」
「ご婦人、ここは危険です。私のことは構わずここを離れてください」
「こんなことになってる怪我人を見捨てることなんてできません」
彼女はクラウスの怪我を確認すると眉をしかめる。
クラウスの怪我は一般人の人間にとっては大怪我を負っているように見えるであろう。
クラウスの制止を振り切り彼女は前に立つことを辞めないが、その足が微かに震えているのが見えた。
恐怖からくるものか、その震えは彼女にとって今の状況が慣れたものではないことを物語っていた。
「こりゃ笑いもんだぜ、その男よりも弱そうな女が守ってんなんて。とんだアホだろ」
「…確かに私はこの男性よりも弱いでしょうけど」
三人組の下卑た笑いを彼女がさえぎる。
震える足とは裏腹に、悪に臆せず立ち向かう凛とした背中だけがクラウスに見える。
「――私より強そうだからといって、私が彼を守らない理由にはならない!!」
叫ぶと同時に何かを三人組に投げつけると、爆発音と共に大量の煙が辺りに広がる。
同時に、走って!と彼女の声がすると腕を引っ張られ、クラウスは彼女が誘導するがままにこの場を後にするのであった。