第1章 馴れ初め
「クラウスだ、戻った」
「おかえり。随分とご機嫌じゃないか」
「うむ。とても至福の時であった」
執務室に帰ってきたクラウスに、スティーブンは声を掛ける。
クラウスは上機嫌な様子で返事をすると執事であるギルベルトが入れた紅茶を受け取り、優雅な手つきでティーカップを持ち上げると一口飲むと、何かに浮かれた表情で吐息をつく。
珍しいこともあるものだ、とスティーブンは思った。
長い間この友人と共にしてきたが、こんな風に嬉しそうにしているのは見たことがない。
もしや、最近昼下がりの決まった時間に珍しく執事のギルベルトもつけずに一人で外出していることに関係しているのだろうか。
最近何をしているのか少し気になる。だが、友人のプライベートな部分に無遠慮に足を踏み入れても良いのだろうか。
だがライブラの副官としては、トップが一体何をしているのかを知るのは危機管理的な面において重要なことである。
しばしの間葛藤した後、スティーブンはクラウスに確認をすることにした。
「なぁクラウス、最近なにを…」
「往生せいや!旦那ァ!」
意気込んで掛け出した声は邪魔が入り掻き消される。
声を遮った男、ザップは出勤早々にいつものようにクラウスに技を仕掛けるがこれまたいつも通り、クラウスに呆気なく反撃をされるとソファにそっと寝かせられる。
それを呆れたように見ながら少年ことレオナルドがザップの横に座る。
どれだけご機嫌で浮かれていようと、彼の強さが鈍ることはないらしい。
他のメンバーも来てしまったし、彼に確認をするのはまた後にしよう。
声を掛けようとしていたのを誤魔化すように、スティーブンは珈琲を口に含んだ。
「それにしても旦那、女連れ歩くなんてやることやってんすね」
「えっ、クラウスさん彼女とかいるんすか!?」
思わぬ事態にスティーブンは珈琲を吹く。
まさか、あのクラウスに、女性の影が?
ザップの発言に、三人の視線が赤毛の紳士に集まった。