第1章 馴れ初め
それからの食事は最近読んだ本の話や、植物の話、クラウスさんの育てている花の話など当たり障りのない話で盛り上がり、いつの間にか食事は終わっていた。
彼と過ごした食事の楽しさに、今まで食事の誘いを断っていたことにほんの少し後悔をする。
いやしかし、あまり親しくなるのも望まないし、それで良かったのだけれども。
「ではもうそろそろ帰りましょうか。お店に戻らないと」
「もうそんな時間か。君との会話が楽しく時を忘れてしまった。店まで君を送ろう」
「ありがとうございます、お言葉に甘え……って、なに伝票持ってるんですか!」
「レディに支払わせる訳にはいかない。ここは私が」
「お礼だった言ったじゃないですか!私が払わないと意味がないです!」
「だが……」
「クラウスさんっ!」
彼が伝票を持った手を上に挙げられると流石に取り返せないし、更には店で騒いだら迷惑だと子供のようにたしなめられた隙にいつの間にか会計は終わる。
………抗議も意味を成さず、クラウスさんにご馳走になる形になってしまった。