第1章 馴れ初め
「クラウスさん、明日のランチはもうご予定がありますか?」
強盗事件から1週間。
もうそろそろ傷も癒えただろうし、私は土の入れ換えを手伝ってくれているクラウスさんに声を掛けた。
「予定はない。もう体は大丈夫だろうか?ハヅキ」
「おかげさまで、もうすっかり元気です」
「それはよかった。なら明日、12時に伺おう」
「わかりました。なにか食べたいものはありますか?」
「ハヅキと共に行けるのならどこでも構わない」
…まるで恋仲の人に言うようなセリフに照れてしまいそうになる。
落ち着け、今のはただの社交辞令の言葉に過ぎない筈だ。
己を律するように、クラウスさんとの共同作業の方に心を傾けた。もう今日の作業も終わりそうだ。
彼はこの1週間、私の体を気遣ってか店の手伝いをしに来てくれた。
はじめは遠慮していたのだが、私は君の力添えすらできないのか……と大きな体をしょんぼりと丸めて項垂れる姿を見ると断ることができず。
しぶしぶお願いをすると、彼はあれやこれやと何故か嬉しそうに手伝ってくれていた。
彼の助力は一人営業の身としてはすごくありがたかったがいつまでもお客様にこんなことをさせる訳にはいかない。
明日お礼をして、通常のお客様との関係に戻らせていただこう、うん。