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私は君の幼馴染

第3章 苛められ同盟


全く不毛な恋だ。血染ちゃんの愛は本物の英雄へと、ひいては正しい世界へと注がれる。三歳年上の巨乳幼馴染の鼻血を舐めながら、そこに恋愛感情だとか下心なんて一欠片だって持っていない。
それでも良かった。血染ちゃんが私の隣にいてくれるなら。私は、頼りになる幼馴染を演じる。
お互いの傷を舐め合い、というか、私の傷から血を舐めさせて血染ちゃんの傷を治す、中学生と高校生の三年間。その内に、私は血染ちゃんを実験台としたガーゼの当て方や包帯の巻き方が大分上達し、血染ちゃんは多勢に無勢のリンチにも負けない程の力を手に入れた。これなら私が大学に上がっても大丈夫だろう。――――そんな甘い考えは、血染ちゃんが高校一年生になった夏、脆くも崩れ去った。血染ちゃんは、高校をやめたのだ。
「白。此の世界は、俺が考えているよりもずっと、終末に近い」
血染ちゃんは数の暴力に圧されて逃げ出すタイプではない。寧ろ間違いが多い程、正しき道を示す為にひた走るタイプだ。血染ちゃんは暴力に屈したのではなく、世界の価値観そのものに失望していた。
好機だと思った。世界に失望をした今ならば、高潔な血染ちゃんであっても私の元へ来てくれると思った。
(そうだよ、血染ちゃん。世界はもう終わってる)
(だから、血染ちゃんが血に染まってまで守る価値なんてない)
(君は君にとって大事な人だけを守れば良い。血染ちゃんは、私が守るから)
そう言おうとしてけれども結局、私はその言葉を口にすることは出来ない。
世界に失望したままに、血染ちゃんはそれでも世界を正そうとした。崇拝と尊敬を向ける、彼の名前を口にして。
「オールマイトは、俺よりもずっとこの世界の醜さを知っている。それでも彼は、世界を救う。穢れようとも自らを否定する愚か者共であろうとも、彼は彼が英雄である限り、見捨てることはないのだ」
ならば俺は彼を否定する咎人を断罪しよう。酷く落ち着いた声で、決意を込めた声色で、血染ちゃんは言う。
「白。俺はこれから、己の人間性を捨てる。彼の理念へ奉仕する為に、人間では脆弱過ぎる」
人間性を捨てた人間、それじゃあ君は一体何になるのか。尋ねることも出来ずに、血染ちゃんの髪に触れる。
「血染ちゃんは、人間性を捨てるのか。だったら、新しい名前とか、必要じゃない?」
精一杯、それだけを口にして、私は血染ちゃんの髪を櫛で梳くのだった。
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