第3章 苛められ同盟
私の言葉に一瞬、血染ちゃんは傷ついた表情を見せた。とはいえ、ナードという言葉に傷ついたのではない。血染ちゃんは、自分への悪評を気にしない。此方が不安になる程、自分自身に無頓着な血染ちゃんが傷ついた表情を見せたのは、私が血染ちゃん関係の話題でリンチに遭ったことを悲しんでいるのだ。
「……俺が罵倒されることなど、日常茶飯事だ。お前が気にすることではないし、憤ることでもない」
「そうだよ。血染ちゃんが『キモイ』とか『中二病』とか『ナード』とか言われるのは日常茶飯事だ。最初こそ一々怒ってたけれど、最近は聞き流すようにもなったさ。でも」
今回はそれだけじゃない。あいつらはオールマイトの悪口も言った。私がそう言うと、血染ちゃんの表情が変わった。赤みがかった暗褐色の瞳が爛々と光る。綺麗な目だなぁ、とぼんやり考えながら、私は言葉を続ける。
「あいつらはオールマイトを偽善者だって言った。ヒーローなんて結局、自分が目立ちたいナルシストだって」
「オールマイトが偽善者だと!?彼の奉仕と自己犠牲を何故理解しない!?」
「出来ないのさ。あいつらの脳味噌は三流ゴシップしか詰まってない肥溜めだ」
「肥溜めならばまだ社会の役に立つ!彼を理解しない輩など、頭を南瓜と挿げ替えた方が未だ建設的だ!」
語気を荒げた血染ちゃんを見て、私は安心する。この無邪気で純粋な男の子にも、人並みに私怨の籠った悪口を言えるし、まだまだ青臭く感情が制御不能になることがあるのだ、と。そっと、血染ちゃんの頬に触れる。
「あいつらは血染ちゃんだけでなく、血染ちゃんの大事な人を傷つけた。だから、私は怒った」
これは正当な主張でしょう。私がそう言うと、血染ちゃんは僅かに困った顔をして、けれどもすぐに力強く頷いてくれた。そういう時の、まだ幼さの残る反応が愛おしくて、私は血染ちゃんにずいと顔を近づけて言う。
「とりあえず、傷の手当だ。鼻血で良かったら、このまま舐めてくれれば良い」
「……迷惑をかけてすまない。俺の個性が発動したら、責任を持ってお前を保健室へ連れていく」
「良いよ、私と血染ちゃんの仲だ。それより、私は『すまない』より『ありがとう』の方が好きだな」
私がそんなことを言うと、血染ちゃんは目を丸くして、それからくすりと可笑しさを堪え切れず笑ってくれた。
「ありがとう、白。お前は本当に、頼りになる幼馴染だ」
