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私は君の幼馴染

第5章 君死に給うその日まで


「……厭うわけがない。君は私にとって、いつまでも大事な幼馴染なんだから」
傷の手当だけはさせて欲しい。私は血染ちゃんの頬を両手で包んで、震えかける声をどうにか押さえ込んで言った。すっかりと抉れてしまった鼻は、私の血をもってしても完全に再生することは出来ない。もし鼻の肉を作り出せるだけの血を流せば私は失血で倒れ、血染ちゃんの細胞は癌化する。滅菌された注射針やメスを探し出す時間も惜しく、私は自身の歯で手の甲を噛み裂いた。
「血染ちゃん、飲んで。……英雄の紛い者を壊す為に、君が死んでしまったら、元も子もない」
「……ありがとう」
謝罪ではなく感謝を述べて、私の手の甲から血を啜る血染ちゃん。肉が引き攣れて歪み、ケロイド状にもなったものの、傷口からの細菌感染は防げただろう。
細胞を増殖させる私の個性は、対象者の体力をそれなりに使わせてしまう。鼻の傷口が塞がった血染ちゃんも疲れたのだろう、うとうとと食事もとらずに眠り始めてしまう。私より幾分大きくなった血染ちゃんの体は、最早私だけではベッドまで運ぶことは出来ず、せめてもと私はタオルケットで彼を包んだ。血染ちゃんは、ぼんやりとした瞳で私を呼ぶ。白、と、子供の時のように私を呼び、内緒話でも話すかのように、その声は私の耳朶を打った。
「俺はな、白。きっといつか、オールマイトに殺される」
それは確信と言うよりも、願望のようで。私は微睡む血染ちゃんの頬を、ほんの少しだけ抓った。
私の気持ちなんてこれっぽっちも知らずに、自分だけ夢を叶えようというのだ。子供の時に比べれば、折れて曲がって歪んでしまったけれど、それでも。血染ちゃんにとって唯一の夢は、目標は、願いは、変わらない。
正しい世界と、本物の英雄。その礎となる為なら、きっと血染ちゃんは喜んで死んでしまうのだろう。
「ああ、本当に。君は意地悪で自分勝手で子供で傲慢だ」
けれども、それでも。大好きな君が望むというのならば。私は君の隣に在って、その願いが叶う瞬間を見守ろう。
だから、それまでは。恋情なんて知らない君の、せめて幼馴染として、隣で生きる時間を引き延ばしていたい。
「血染ちゃん、愛してるぜ」
君が死ぬその日まで、私は君の隣で与えられる生を、ただ強く希うのだ。
その昔お姫様の如く艶やかだった髪を、今は魔獣の如く荒れ果てた髪を、子供時代を真似て櫛で梳きながら。
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