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私は君の幼馴染

第2章 私たちの個性


私達が思春期を迎える頃、今とは比べ物にならない程に個性差別が根強かった。私はまだ「分け与える側」である為、表立って攻撃をされることは殆どない。けれども、血染ちゃんのように他者の血液に依って自由という権利を「奪う側」である個性は、人々から好奇や恐怖、嫌悪の目を向けられる。本人がそれを望んでいない、考えてすらいない悪意を、赤の他人が向けてくる。
「血染ちゃんの個性は捕縛に凄く役立ちそうだよね」
「ああ。だがその為には、ヴィランを負傷させなければいけない」
普段は「ヴィランは全員死刑だ」とか「犯罪者に人権はない」なんて言う癖に。実際に血染ちゃんのような個性を前にすれば、何も知らない有象無象が口々に「加害者にも人権を」とか「正義を笠に着た暴力を許すな」なんて喚き出す。社会の為でもヴィランの為でもない、ただ「自分が悪者になりたくない」為に。自分がそれから逃れる為に、人は自分以外の他人に悪意があると決めつける。
「……私は、血染ちゃんがヴィランを捕縛する為に、血を流させるのは仕方ないと思うよ。ヴィランを止められなかったら、たくさん人が傷つくかもしれない。だったら、それは正しい行動だ」
「……分かっている。真の平和を手に入れる為には、誰かが血に染まらねばならない。ならば、染まるべきは英雄を目指す俺だ。……完全なる英雄にはなれずとも、それだけの覚悟は出来ている」
完全なる英雄。血染ちゃんが崇拝を向ける彼は、誰かの血に染まることはあるのだろうか。少なくとも、血染ちゃんはオールマイトは他者の血に染まりはしない、完全無欠の聖人と思っている。
「なら、血染ちゃんがヒーローになるまでに、私も医者になれるように頑張るよ」
まだ私より少し背の低い血染ちゃんが、つっと背伸びをして目線を合わせてくれる。一つにまとめた黒髪を風に揺らし、彼は言う。
「ああ、約束しよう。俺達はいずれ本物の英雄となって、この世界へ正しき標を示すんだ」
穢れと言うものを知らない夢。人の身で世界の全てを正そうという血染ちゃんの思想は、所謂中二病に収まらない。戦うヒロインに憧れていた私が、中学生になる頃には諦めた夢を、血染ちゃんは中学生の今でも大事に育み続けていた。
惚れた弱み。私の行動はその一言に帰結する。不可能と諦めた夢の亡骸を抱いて、私は血染ちゃんの隣を歩き続けた。血染ちゃんが世界の「救えなさ」に気づいて、絶望を知るまで。
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