第2章 瀬見英太~年上彼女~
「ナイスキー!」
体育館に響き渡るスパイク音に目を覚まし、トスを上げる感覚に背筋が伸びる。
一時の高揚が昨日の出来事を吹き飛ばしてくれるようだ。
まだまだイケる!そう思う僅かな自信すら白布の声がかき消す。
「引退して久々に顔見せたと思ったら…やっぱり鈍ってますよ」
「相変わらず可愛くねぇなぁ」
「年上彼女とうまくいってないんじゃないですか?トスに迷いがでていますよ」
何もかも見透かす視線に、彼女ができた自慢をした事を後悔した。
笑いたきゃ笑え…。白布を前に素直に話すなんて俺も相当弱っているな。
意地やプライドすらどうでもよくなるほど好きになってたのかもな…頭のどこかでそう思いながら口からは彼女への気持ちが溢れていた。
「そんなことで弱気になって、瀬見さんらしくないですね。自分の意志を貫く人だと思っていましたけれど?そこは尊敬してましたよ」
笑うと思っていた生意気な後輩の、真剣な眼差しを前に言葉はでなかった。
「最後まで貫いたらどうです?」
挑発めいた視線に負けじ根性が出る。
「言われなくてもだよ!それに“そこは尊敬”ってなんだよ!」
きっと俺は自信満々に笑っていたのだろう。その言葉を聞いた白布も笑っていた。