第2章 瀬見英太~年上彼女~
肌に寒さを感じて目を覚ます。
毛布は頼りなさげに自分の下半身のみ覆っており、大きいはずの毛布の大半は横にいる彼女に巻き取られていた。
温もりに縋るように近づき抱きしめると、彼女の髪を伝って香るタバコと彼女の匂いに安心を覚える。
そっと項に口付けると、乾いた声と共に響いた名前は俺のものではなかった。
「失恋したならさ、私と付き合ってみる?その人の代わりでいいから」
寂しそうに笑う彼女に言われて付き合いだしたのは3ヶ月前だった。
俺の前の想い人である学校のセンセイと同じくらいの歳。
少女のような顔を見せるセンセイとは違い、年相応のザ・イイ女、高校男児が一度はお相手を願いたい大人の女性だ。
失恋してヤケクソだった俺は不思議に思いながらも承諾した。勿論大人の女性に…という下心も当然かなりの割合を占めてあった。
「まさか俺が代わりだったなんてな」
彼女の狭いアパートに響いた別の男の名前。
項に触れていた俺の唇が硬く震えていたのを敏感に感じ取った彼女は、
「ごめん」
短く謝罪の言葉を述べ、続けて俺に言った。
「前の彼氏が忘れられないの」
我ながら情けない。“失恋の痛手を癒すため”に付き合ったつもりが、どっぷりとハマっているのだと凍る心臓が教えてくれた。